日本金属学会

金属組織写真賞

第66回金属組織写真賞 選評

 本年度の応募数は、1. 光学顕微鏡部門4 件、2. 走査電子顕微鏡部門4 件、3. 透過電子顕微鏡部門3 件、4. 顕微鏡関連部門1 件、合計12件であった。近年、応募件数は20件台で推移しているが、本年度は、落ち込みが際立った。募集方法には変更は無いことから、歴史的にも評 価の高い金属組織写真賞への応募を促したい。
審査結果である。1 次審査の結果、第1 部門2 件、第2 部門2 件、第3 部門1 件、第4 部門1 件が第2 次審査候補作品に選出された。2 次審査では、最初に優秀賞が3 件選出され、その後、作品についての意見交換を行い、最優秀賞を1 件選出した。ついで、奨励賞2 件が選出された。
 最優秀賞作品の「六方晶マンガン酸化物における渦状ドメイン構造」は、超構造に関係した渦状ドメイン構造を持つ組織写真である。学際的には、光学顕微鏡とTEM 暗視野法を組み合わせることで、渦状ドメイン構造が数百mm の範囲で不変であることを示したことが高く評価された。すなわち、巨視的な形態的観察が必要な場合、光学顕微鏡との併用がブレークスルーとなることを実証した。技術的には、選択エッチング法により180°ドメインを簡便な方法で、かつ広範囲にわたり明瞭に可視化できることを見出した価値は大きい。写真作品としても綺麗な仕上がりになっていることなど最優秀賞作品に値すると選出された。
 優秀賞作品2 作品のうち、第2 部門の「SEM による磁気イメージング~環状検出器によるL10 型CoPt 合金の磁区構造観察」は、SEM 鏡筒内に配置した環状検出器により観察した磁区構造の組織写真である。磁区構造の観察は磁性材料研究において非常に重要である。鏡筒内の環状検出器による磁区像の観察手法は、広範にわたる表面の磁区構造を他の情報と同時に解析できる実験手法となることが高く評価された。第3 部門の「Ti-20Nb-0.7O 合金における等温a″マルテンサイトの生成・成長過程」は、マルテンサイト(M)変態における核生成と成長過程の組織写真であり、貴重な写真である。応募者らが考案した酸素微量添加法により、等温M 変態において、核生成と成長過程を明らかにしたことには新規性があり高く評価された。M 変態は金属組織写真の王道であり、さらにv 相との関係にも踏み込んで欲しいとの意見もあった。
 奨励賞作品2 作品のうち、第2 部門の「SEM 電子線チャネリングコントラスト法を利用した広範囲転位密度マッピング」は、転位の組織写真である。材料の変形や破壊の理解には、転位組織の不均一性を考慮することが重要である。転位密度はTEM による薄膜試料の局所観察やXRD によるバルク体の平均値であったが、SEM 電子線チャネリングコントラスト法により、広範な視野中で転位密度の局所的な不均一性が観察できることが評価された。第4 部門の「Ag デコレーション法および走査型ケルビンプローブフォース顕微鏡法を用いたオーステナイト/マルテンサイト二相鋼の水素脱離挙動観察」は、2 つのマルテンサイト板の接合界面において生じた水素助長割れの組織写真である。世界的レベルで開発中のTRIP 鋼やDP 鋼の水素脆化機構を考察する上で、また次世代耐水素複相鋼を設計・開発する上での貢献度が評価された。
 選に漏れた作品の中にも、学術的にも技術的にも優れた作品が含まれており、賞の選定には苦労した。作品募集では、和文誌や欧文誌に優れた組織写真が多数見受けられるので、応募作品を広げる募集要項とすることも必要である。

金属組織写真賞委員会委員長 
原田 修治(新潟大学)

受賞結果最優秀賞 1件 
優秀賞 2件 
奨励賞 2件
応募作品数 【第1部門】 4件 
【第2部門】 4件 
【第3部門】 3件 
【第4部門】 1件

最優秀賞
六方晶マンガン酸化物における渦状ドメイン構造

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応募部門

第1部門 光学顕微鏡部門

応募者・共同研究者

堀部 陽一, 九州工業大学大学院工学研究院
Yoon Seok Oh, Ulsan National Institute of Science and Technology
Seung Chul Chae, Seoul National University
Xueyun Wang, BeijingUniversity of Science and Technology
Sang-Wook Cheong, Rutgers University

作品の説明

 六方晶マンガン酸化物は、超構造に関係した 3 種類の反位相ドメイン(α、β、γ)および 2 種類の強誘電ドメイン(+、-)が交点周りに規則配列した、渦状ドメイン構造を持つことが知られている(1)。渦状ドメイン構造の微視的特徴については、これまで透過型電子顕微鏡(TEM)を用いた超格子暗視野法や、環状高角暗視野走査透過型電子顕微鏡法等により詳細に調べられてきたものの(2)(3)、ドメイン構造のサイズ依存性や外場印加時の形態変化などの巨視的特徴については、これまで明らかではなかった。本研究では渦状ドメイン構造のサイズ効果について明らかにするため、エッチング処理を行ったフラックス育成単結晶表面において光学顕微鏡(Optical Microscope Axio Imager M1m model)および原子間力顕微鏡(AFM: Nanoscope IIIA)を用いた観察を行うと共に、TEM(JEM-2010F)を用 いた暗視野像との比較を行った。
 リン酸を用いて表面をエッチング処理した ErMnO3 As-grown 単結晶から得られた光学顕微鏡像を、図1(a)に示す。光学顕微鏡像中には100 μm 以上の広範囲にわたって、大きさが 10~20 μm 程度の 6 つのドメインが 1 点で交わった特徴的なコントラストが観察される。このコントラストは図 1(b)の AFM 像および 1(c)の模式図で示すように、180°強誘電ドメインの分極方向に依存したエッチング速度の差の結果生じたと考えられる(4)。一方、急冷単結晶内部から得られた TEM 超格子反射暗視野像(図 1(a)挿入図)中には、主に 0.2~1 μm 程度の渦状ドメイン構造が明瞭に観察される。両者を組み合わせたマルチスケール観察から、本系における渦状ドメイン構造は、102 以上異なるスケールにおいても同一の構造を有することが明らかとなった。

文献
(1) T. Choi, Y. Horibe, H. T. Yi, Y. J. Choi, W. Wu, and S.-W. Cheong: Nature Materials, 9(2010), 253-258. (2) W. Wu, Y. Horibe, N. Lee, S.-W. Cheong, and J. R. Guest: Phys. Rev. Lett., 108(2012), 077203. (3) X. Wang, M. Mostovoy, M. G. Han, Y. Horibe, T. Aoki, Y. Zhu, S.-W. Cheong: Phys. Rev. Lett., 112(2014), 247601. (4) S. Chae, Y. Horibe, D. Y. Jeong, S. Rodan, N. Lee, and S.-W. Cheong: Proc. Natl. Acad. Sci., 107(2010), 21366-21370.

優秀賞
SEM による磁気イメージング~環状検出器による L10 型 CoPt 合金の磁区構造観察

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応募部門

第2部門 走査電子顕微鏡部門

応募者・共同研究者

赤嶺 大志, 九州大学総合理工学府
奥村 聡, 九州大学総合理工学府
Sahar Farjami, 九州大学総合理工学研究院
村上 恭和, 九州大学工学研究院
西田 稔, 九州大学総合理工学研究院

作品の説明

 走査電子顕微鏡(SEM)による磁気イメージング法(1)は、バルク状態での観察が可能であり、像の取得も比較的簡便に行えるという点において優れているものの、従来高い分解能を得ることが困難であった。一方、低加速電圧における収差低減技術の開発や検出器の性能向上により、近年 SEM のイメージング性能は著しく向上した。本研究では、高分解能指向型の FE-SEM に搭載されたインレンズ型環状検出器を用いて、複雑な磁区構造を明瞭かつ簡便に観察できる手法を提案した。従来の方法では磁気偏向された二次電子や反射電子の検出に制約があり、一度の像取得で観察できる磁区(観察できる磁化ベクトルの方向)も限定的であった。これに対して本手法では、軸対称性なインレンズ型環状検出器を利用するため磁気偏向された電子を効率良く収集でき、基本的に全ての方位の磁区を広域な視野で観察することができる。特にインレンズ型検出器は低エネルギーの散乱電子を低いノイズレベルで取得できるように設計されているので、磁気偏向に対する高い感受性が期待され、高分解能観察に有利であると考えられる。また、本手法は形態・方位の評価など SEM の基本機能と併用できるため、磁性材料の多面的な解析に有効である。
 図1にディンプリングおよび Ar イオンミリングにより作製した L10 型強磁性 CoPt 合金の TEM ディスク表面の(a)インレンズ型検出器による磁区構造像、(b)結晶方位像、(c)表面凹凸像を示す。図中には図 1(d)に示す 2 つの結晶方位バリアント X、Y が存在し、磁化容易軸に対応する[001]L10 が面直方向を向いている領域 X においては明瞭な迷路状の磁区構造が観察される。一方で、バンド上の領域 Y では、[001]L10 は面内にあり、迷路状磁区構造は見られない。さらに、研磨孔から離れるにつれて磁区幅が粗大化しており、磁区構造の厚さ依存性を詳細に評価できる。以上のように、本手法により磁区構造を含む多様な情報を選択的にかつ同時に広範囲にわたり取得できる。

文献:(1) G. A. Jones: J. Magn. Magn. Mater., 8(1978), 263-285.

優秀賞
Ti-20Nb-0.7O 合金における等温 α″マルテンサイトの生成・成長過程

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応募部門

第3部門 透過電子顕微鏡部門

応募者・共同研究者

田原 正樹, 東京工業大学精密工学研究所
稲邑 朋也, 東京工業大学精密工学研究所
金 熙榮, 筑波大学数理物質系
宮崎 修一, 筑波大学数理物質系
細田 秀樹, 東京工業大学精密工学研究所

作品の説明

 マルテンサイト変態を理解する上で核生成と成長の過程を解明することは非常に重要な課題である。実験的にこれらの過程をとらえる様々な試みがこれまでに行われてきたが、マルテンサイト変態の進行が極めて速いために依然として不明確な点が多い。本研究では、β 相(bcc)から α″相(orthorhombic)へのマルテンサイト変態が起こる Ti-20Nb(mol%)合金において、酸素を微量(0.7%)添加した上でマルテンサイトの生成と成長の過程を観察した。Ti-Nb 合金のマルテンサイト変態は非等温変態であるが、酸素を添加することでマルテンサイト変態が阻害され(1)(2)、等温的にマルテンサイトが生成されるようになる。そのため様々な条件で等温保持を行い、マルテンサイトの生成・成長過程について透過電子顕微鏡による詳細な観察を試みた。
 酸素原子により数 nm 程度の martensite-like な変調構造(nanodomain)が β 相中に生成しマルテンサイト変態が抑制されるが(1)(2)、等温保持により数十 nm のマルテンサイトが生成した(図1a)。さらに等温保持を続けることでこのマルテンサイトはプレート状になり(図1 b、c)、同一の格子対応バリアント(CV)となるプレート状マルテンサイト同士は互いに密集して生成・成長することでクラスタを形成した(図2)。各プレートの晶癖面はおおよそ{557}β であり(図3a)、マルテンサイト変態の現象論(PTMC)から計算される値と一致した。プレートの生成と成長により各クラスタ領域が増大すると同時に、プレート間に残された β 相が消失することでより大きなマルテンサイトになると考えられる(図 3b)。

文献
(1) Y. Nii, T. Arima, H.Y. Kim and S. Miyazaki: Phys. Rev. B, 82(2010), 214104.
(2) M. Tahara, H.Y. Kim, T. Inamura, H. Hosoda and S. Miyazaki: Acta Mater., 59(2011), 6208-6218.

奨励賞
SEM 電子線チャネリングコントラスト法を利用した広範囲転位密度マッピング

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応募部門

第2部門 走査電子顕微鏡部門

応募者・共同研究者

山崎 重人, 九州大学大学院総合理工学研究院
光原 昌寿, 九州大学大学院総合理工学研究院
波多 聰, 九州大学大学院総合理工学研究院
中島 英治, 九州大学大学院総合理工学研究院

作品の説明

 本研究では SEM 電子線チャネリングコントラスト(ECCI)法の利点の一つである広範囲の観察が可能であること活かして、広範囲の転位密度分布を評価した。SEM-ECCI 法によって転位線の観察が可能であることは以前より知られていたが、本研究では 60 μs/point の長時間照射により高いシグナル/ノイズ比を確保しつつ、6144×4376ピクセルの高解像度で画像を取得することで、5000倍程度の低倍率 SEM 画像であっても転位線を明瞭に認識するとともに、広範囲の観察を可能とした。図(a)は SEM-ECCI 法で観察した転位組織であり、暗い母相の中に明るい線として転位が観察できる。EBSD 法で測定した電子線の入射方位をもとに ECCI 観察条件において励起されている回折波を特定し、消衰距離と電子線侵入深さの関係(1)から観察視野深さを推定した。その上で、任意の領域中に存在する転位線と視野上に描いた格子との交点数を計測し、Ham の方法を用いて転位密度に換算した。図(b)は観察視野を 1 μm 四方のピクセルに区切って評価した転位密度マップである。単一の結晶粒内にも二桁以上の転位密度の差があることがわかる。また、図(b)の紙面左側の結晶粒界から 3 μm 度の領域において転位密度が局所的高くなっており、隣接粒との変位の連続性を維持するために極めて限られた領域に集中して活発な転位運動が生じたことがわかる。

文献:(1) A. J. Wilkinson et al.,: Philos. Mag. A, 68(1993), 59.

奨励賞
Ag デコレーション法および走査型ケルビンプローブフォース顕微鏡法を用いた
オーステナイト/マルテンサイト二相鋼の水素脱離挙動観察

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応募部門

第4部門 顕微鏡関連部門

応募者・共同研究者

小山 元道, 九州大学
永島 達也, 九州大学
津崎 兼彰, 九州大学
Asif Bashir, Max-Planck-Institut fur Eisenforschung GmbH
Michael Rohwerder, Max-Planck-Institut fur Eisenforschung GmbH

作品の説明

 鉄鋼材料において、侵入水素分布の可視化は水素脆化機構解明のため必要不可欠な技術である。水素脱離に関する流速分布は、その拡散能の高さから、Multi-scale かつ Kinetically に微視組織スケールで示す必要がある。この要求される水素の可視化を実現するため、Fe-32Ni-0.2C (wt.%)オーステナイト/マルテンサイト二相組織を対象とし、Ag デコレーション法により Multi-scale での特徴、走査型ケルビンプローブフォース顕微鏡法(SKPFM 法)によりその時間依存性を示した。Agデコレーション法は、77 K 冷却によるマルテンサイト変態由来の表面起伏が形成された試料に対し、9 h 電解水素チャージし、4.3 mM Ag[K(CN)2]水溶液に 3 h 浸漬したのち観察を行った。SKPFM法は、77 K 冷却済み試料を鏡面研磨後、3%ナイタールでエッチングを施した試料に対し、1h 電解水素チャージし、物理蒸着により表面に100 nm Pd 層を形成したのち観察を行った。Ag デコレーション法では広範囲にわたってマルテンサイト部の水素の流速が大きく(図1(a))、2 つのマルテンサイト板の接合界面で流速が特に大きいことが示されている(図 1 ( b )黄矢印部)。この特徴はSKPFM 法による表面電位像でも現れており(図2(a′、 b′)白矢印部)、時間経過とともにマルテンサイト中の水素の流速分布が均質となることも示されている(図 2(c′))。本観察で得た水素の大流速部は、水素助長割れの発生サイトに対応する結果 である(1)

文献:(1) M. Koyama, C.C. Tasan, T. Nagashima, E. Akiyama, D. Raabe and K. Tsuzaki: Philos. Mag. Lett., (2016) in press, 10.1080/09500839.2015.1130275.

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