応募部門 | 1.光学顕微鏡部門 |
題目 | Weck’s 試液を用いた組織観察における試液温度の影響 |
作品の説明 | これらの写真は、A356(Al-Si-Mg系)アルミニウム合金のセミソリッドダイカスト材の光学顕微鏡像である。(a)は研磨まま材であり、(b)-(e)は研磨後にWeck’s試液によって特殊な腐食を施している。ここでは、試液に浸漬する時間を12秒間と一定とし、試液の温度を種々に変えている[(b):15℃、(c):20℃、(d):25℃、(e):30℃]。一枚の組織写真を撮影後、わずかに研磨することで腐食層を除去し、他の試液温度で腐食することで、同一箇所の組織を観察することに成功した。研磨まま材(a)の写真では、アルミニウム母相と共晶Si相がそれぞれ灰色と黒色で観察され、それらの形態やサイズの情報のみ得られる。一方、Weck’s試液によって腐食した写真(b)-(e)では初晶アルミニウム相の内部や共晶領域にカラーコントラストが観察される。組織内の溶質濃度を反映して様々に呈色し、ミクロ偏析を可視化することが可能である。カラーコントラストは、試液温度が15℃から25℃へと高くなるにしたがって明瞭になり、30℃まで高くなると再び不明瞭になっていく様子がわかる。 |
学術的価値 | Weck's試液による呈色メカニズムは、試液の主原料であるKMnO4がAlと反応することでMnO2被膜を形成し、その被膜厚さや被膜直下の基材の表面粗さが可視光の干渉に影響を及ぼす。試液温度によってカラーコントラストが大きく変化することがわかり、腐食時間のみならず試液温度もKMnO4とAlの反応に大きな影響を及ぼすことが確認された。これによりEPMAを用いずに半溶融状態での溶質偏析の情報が得られる。 |
技術的価値 | A356アルミニウム合金を半溶融温度で保持した際、本合金に含まれるSi、Mg、Ti等の溶質分布は拡散によって変化するが、初晶アルミニウムの形態は樹枝状から粒状へと大きく変化するものの拡散速度の遅いTiの凝固偏析は解消されずほぼそのまま残存するという状況を、光学顕微鏡によって明瞭に可視化できた。さらに試液温度によるカラーコントラストの影響を調べたことで、最適な腐食コンディションが明らかとなった。 |
組織写真の価値 | 組織内のミクロ偏析などは、これまでEPMAなどを用いてごく限られた領域を測定することで調べられてきたが、Weck’s試液を用いた腐食により、広範囲のミクロ偏析の情報を定性的ではあるが光学顕微鏡によって短時間で得られるようになった。試液温度が高くなるにしたがって明瞭に呈色される領域が増加しており、溶質濃度による腐食の感受性が明らかとなった。 |
材料名 | A356 アルミニウム合金 (Al-6.9Si-0.39Mg-0.10Fe-0.14Ti) |
試料作製法 | 圧縮による歪を導入したA356アルミニウム合金インゴットを半溶融温度(595℃、固相率50%)まで昇温し、5分間保持後にセミソリッドダイカストした。 |
観察手法 | 試験片表面を鏡面研磨し、光学顕微鏡による観察を行った。つぎに、Weck's試液により12秒間の腐食を施し、光学顕微鏡観察を行った。その後、わずかに鏡面研磨することで腐食層を除去した。これを繰り返し、試液温度を15℃、20℃、25℃、30℃と変化させつつ、組織内の同一箇所を観察した。 |
出典 | なし |
応募者・共同研究者 | 1. 雷 斯敏、東京工業大学
2. 原田 陽平、東京工業大学
3. 熊井 真次、東京工業大学
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