日本金属学会

金属組織写真賞作品

3-2

応募部門 3.透過電子顕微鏡部門(STEM, 分析等を含む)
題目 Al-Zn-Mg-Cu合金における結晶粒界無析出物帯中の溶質クラスタ
作品の説明 超々ジュラルミンとして知られるAl-Zn-Mg合金は、強度と延性の改善の目的でCuが添加される。この合金では平衡相はη- MgZn2であり、Cuを含むことからS相(Al2(Cu,Mg))等の析出も予想される。一方でCuは結晶粒界にCuを含む化合物あるいは偏析するとされ、耐食性を劣化させる原因ともされている。本実験ではZn/Mg≒2を含むAl-Zn-Mg合金に対するCuの効果について調査する目的で行われた。図1は473K, 0.96ksで時効したAl-3.7 mol.%Zn – 1.8 mol.% Mg – 1.0 mol.%Cu (ZM42HC)合金の結晶粒界近傍のHAADF-STEM像である。ここで測定される結晶粒界を挟む一般的な無析出物帯(con-PFZ)の幅は約400nmであり、結晶粒内は主として中間相η’と平衡相ηの存在を確認している。図2は図1中で白四角点線で示したA領域の拡大像である。この倍率で結晶粒界から片方の結晶に対して約35nm程度離れた箇所から結晶粒内側に向かって若干のコントラストが確認された。図3(a)は、図1中のB並びに図2中のPFZ内の白四角点線で示した領域をさらに高倍率で観察した画像である。白矢印で示した部分にコントラストの違いが明確に観察されており、溶質クラスタと考えられる。それらの典型例を画像処理して拡大した画像を図3(b)と(c)に示した。さらにこの高倍率でのEDSマップと点分析によって、粒界析出物にはCuの含まれないMg-Zn系化合物であったが、これらのクラスタにはZnの強度は大変低く、主としてMgとCuが対応したことを確認したので、それらの模式図をそれぞれ図(d)と(e)に示した。この模式図は著者らが時効硬化型Al合金の初期構造として提案したMg-Si(-Al), Mg-Si-Cu, Mg-Al-Cu, Mg-Al-Znという第2クラスタの構造1)(以後ユニバーサルクラスタ)に類似している。さらにKovarikとMills2)がAl-Cu-Mg3元系合金のGPB-ⅡのHAADF-STEM像として示したピーナッツパターンと報告している画像と酷似している。以上の結果から、本合金では結晶粒界から片側約35nm、平均のPFZの幅としては約70nmがいわゆる無析出物帯(n-PFZ)であり、そこから結晶粒内に向かっては主としてMg-Al-Cu系クラスタ(GPB-II)が存在し、そして結晶粒界から片側約200nm、平均のPFZの幅として約400nm付近からはη’/ηが主たる結晶粒内の析出物として存在すると考えられた。 1) K. Matsuda et.al, Materials Transactions, 58 (2017),167-175. 2) L.Kovarik, M.J. Mills: Acta Mater., 60 (2012), 3861-3872.
学術的価値 本研究により従来のTEM観察ではPFZと判断されてきた領域内に著者らが提案したユニバーサルクラスタ、Al-Cu-Mg合金で報告されたGPB-Ⅱ類似の生成物の存在を発見した。このことは(1)延性とPFZの平均幅との相関関係、および(2)Cu添加による耐食性劣化説について、本結果を基にさらなる検討が必要であることを提案するものである。
技術的価値 合金の化学組成とGPソルバス近傍の異なる時効条件の試料に対して、従来のTEM観察、電子回折とHRTEM観察を主とした詳細な観察と解析を行うことで、HAADF-STEM法によって観察すべき時効条件と場所の特定を行い、データを取得した点。
組織写真の価値 (1)Al-Zn-Mg系合金に観察されるη’/η相と、Al-Cu-Mg系合金で観察される時効初期生成物(ユニバーサルクラスタ/GPB-Ⅱ)が共存していることが明らかとなった点。(2)それらが従来はPFZとして測定していた領域のさらに内側に存在していた点。
材料名 Al-3.7 mol.%Zn – 1.8 mol.% Mg – 1.0 mol.%Cu (ZM42HC)合金。比較合金としてCuを0(ZM42)と0.2mol%添加した(ZM42C)合金を使用。
試料作製法 ラボ鋳造にて目標組成の合金インゴットを作製し、熱間押出にて板材に成型した。冷間圧延にて所定の厚さの板材とし、748Kで3.6ksでの溶体化処理後、氷水中に焼入れ、主に473Kのシリコン油浴中にて時効処理を行った。時効処理はピーク硬さである0.96ksを中心に行った。比較用として亜時効0.12ksと過時効24ksの試料も作製した。その後、機械的研磨と電解研磨法によってTEM観察用の薄膜試料を作製した
観察手法 TEMはTOPCON 002Bを加速電圧120kVで使用。HAADF-STEM はダブルコレクター装備のcold-FEG JEOL ARM-200Fを 200 kVで使用。電子プローブ径: 0.08 nm, 収束角28 mrad。
出典 K. Matsuda et.al, Materials Transactions, Vol.60, No.8, pp.1688 – 1696, 2019.
応募者・共同研究者  1. 松田 健二, 富山大学
2. 安元 透, 富山大学大学院生(現・三菱アルミニウム(株))
3. Bendo Artenis, 富山大学(現・Imperial College London)
4. 土屋 大樹, 富山大学
5. 李 昇原, 富山大学
6. 西村 克彦, 富山大学
7. 布村 紀男, 富山大学
8. Marioara Calin, SINTEF
9. Lervik Adrian , ノルウェー科学技術大学
10. Holmestad Randi, ノルウェー科学技術大学
11. 戸田 裕之, 九州大学
12. 山口 正剛, 日本原子力研究開発機構
13. 池田 賢一, 北海道大学
14. 本間 智之, 長岡技術科学大学
15. 池野 進, 富山大学名誉教授
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