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未来を担う研究者たち

井田 駿太郎

優れた超高温材料を目指して、B1型炭化物である炭化チタン(TiC)の靭性向上のための研究をしています。TiCは低密度(約5g/cm3)であるにも関わらず、融点が約3000 ℃以上であることから超高温材料として有望ですが、室温における脆さが大きな課題です。現在、TiCは切削工具やサーメットの材料の硬化層(強化相)としても使用されていますが、TiCを大量に導入した際に材料が脆くなってしまいます。その結果、TiCの使用範囲は大幅に制限されています。一方で、現在最も広く使われている高温材料のNi基超合金の強化相であるNi3Alは材料中に70%程度まで多量導入が可能ですが、これはNi3Al自体に変形能があり、脆くないことに起因します。したがって、TiCの脆さを克服できれば、これからのゼロエミッション社会に向け抜本的なエネルギー源の変化が予想される中で、それに耐えることのできる超高温材料の開発につながるのではないかと考えています。

私はこのB1型炭化物の脆さの克服を目指して、非化学量論性をキーワードに研究を進めています。TiCは異種金属の占有や空孔の形成ができるため、これらに伴い物性(融点、弾性率など)が変化します。私はこの変化を利用し、物性をコントロールできれば、脆さを克服する炭化物の設計ができるのではないかと考え、実験だけではなく、第一原理計算などの計算科学を合わせて研究を進めています。
現状ではTiCは靭性が低いと考えられていますが、当研究室で研究開発を進めているMoSiBTiC(モシブチック)合金はTiCを混ぜることにより靭性が高くなるという結果を得られています。もしかすると、TiCはそれほど靭性が低くはないのかもしれませんし、他の金属の合わせ方次第なのかもしれません。非化学量論性をもったTiCの物性や機械的性質をさらに解明することで、超高温材料への道が拓けるのではないかと考えています。次世代材料として活用されるまでにはまだまだ長い道のりかもしれませんが、この挑戦を続けていきます。

さまざまな金属材料研究者との出会いを通じて

さまざまな金属材料研究者との出会いを通じて

日本金属学会では日本中の金属材料研究者と交流をすることができます。日本金属学会の最大のメリットは金属学をベースとしつつ、研究内容は異なる研究者が相互理解を深められることと感じています。また、若手にもさまざまなチャンスを多くいただき、名前や研究内容を広く知っていただける機会は若手研究者にとって非常に貴重です。例えば学生時代に金属間化合物のセッションに参加した際には多大な功績を残した研究者や若手の研究者と熱のあるディスカッションさせていただきました。そして、その後の交流会では同世代の研究者とのつながりを持つことができました。

このような日本金属学会での交流を通じ、構造金属材料の若手研究グループ(「CO2ゼロエミッション社会に向けた耐環境構造金属材料研究グループ」)を日本金属学会の支援で発足できました。本研究グループでは力学特性と耐環境特性それぞれの学術バックグラウンドを持つ若手研究者が、同じテーマを異なる視点で議論することにより、新しい発想や課題を見出す機会とし、新たな観点からの共同研究を進めています。今後のCO2ゼロエミッション社会に向けてインフラの劇的な変化が求められる中、構造材料の抜本的な見直しも必要になります。例えばCO2排出量削減のためには構造金属材料の見直しが不可欠です。日本において主なCO2排出は発電(4.2億トン)や自動車(1.8億トン)および鉄鋼(1.4億トン)で、全体の65%を占めます。2050年カーボンニュートラル達成に向けた発電の脱炭素化においてはエネルギー源の置き換えに伴う構造金属材料の抜本的な見直しがなされるはずです。また、水素などの新しいエネルギー源の置き換えや使用環境の極限化が進行することにより、材料への環境負荷はますます厳しくなっていきます。

さまざまな金属材料研究者との出会いを通じて さまざまな金属材料研究者との出会いを通じて

例えば、水素を貯蔵する水素タンクは水素脆化が起こりやすく、材料の変形や破壊、疲労等がどのように進むのか、そしてそれら現象にどのように対処するのかが求められています。また、水素燃焼時に材料は、高温高圧の水蒸気環境下で長時間使用されるため、化石燃料を燃焼させる場合よりも材料への環境負荷が大きくなるはずです。したがって、CO2ゼロエミッション社会の実現には力学特性分野と耐環境分野の連携と融合がこれまで以上に必要となると考えています。そのため、本若手研究グループのメンバーには私のように力学特性の研究をしている者のほか、高温酸化など耐環境性を研究している者がいます。彼らは皆、学生の頃に日本金属学会を通じて知り合ったメンバーで、それぞれ北海道大学、東京工業大学、東北大学、京都大学やNIMS(国立研究開発法人物質・材料研究機構)などで活躍しています。また、本グループではアカデミックな研究者と企業の研究者とが連携し、研究機関、大学に在籍する研究者が企業の工場を視察させていただくことにより、現場から新たな課題を見出すなどの活動を行う予定です。CO2ゼロエミッション社会に向けた耐環境構造金属材料研究という目的を同じく切磋琢磨しながら、研究現場と産業の現場をつなぐことで、さらなる議論と共同研究に励みたいと思います。
研究会ではすでに耐熱鋼に窒素を材料表面から加える共同研究を開始しています。表面から導入した窒素による傾斜機能化により耐環境性だけでなく、機械的性質も改善できるではないかと期待に胸を膨らませています。

未来へ向かって 金属研究にかける夢

未来へ向かって 金属研究にかける夢

私にとって、金属研究は楽しいことも苦しいこともありますが、仲間とともに取り組んでいける野球のようなチーム競技だと感じています。個人プレーももちろん重要ですが、チームで取り組み、一つの目標に向かい達成をしていく要素も多くあると感じます。どんな研究も一人で目標を達成することはできません。したがって、材料分野における研究者として世界をリードできる人材となることを目指すとともに、教育者として学生と一緒に学びを深め、共に成長し、優れた人材を輩出していくことに寄与したいと思っています。また、今後も日本金属学会を通じて様々な研究者と共に金属材料分野の発展に貢献するため努力していきます。
(取材:2022年8月 東北大学にて)

Profile

井田 駿太郎 博士(工学)

2009年3月 私立穎明館高等学校卒業
2013年3月 東京工業大学金属工学科卒業
2015年3月 東京工業大学大学院理工学研究科材料工学専攻修士課程修了
2018年3月 東京工業大学大学院理工学研究科材料工学専攻博士課程修了
2018年4月 東京工業大学物質理工学院研究員
2018年5月 東北大学大学院工学研究科知能デバイス材料学専攻助教
現在に至る

専門分野超高温材料、TiC、高温材料、金属間化合物

[日本金属学会活動]
2021/03 - 現在 日本金属学会東北支部 支部委員
2019/04 - 現在 日本金属学会 まてりあ編集委員
2022/04 - 2024/03 日本金属学会 若手研究グループ CO2ゼロエミッション社会に向けた耐環境
構造金属材料研究グループ 代表者

本インタビューは2022年8月の内容です。
本内容に関するお問い合わせ、取材依頼は日本金属学会までご連絡をお願いいたします。

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