日本金属学会

未来を担う研究者たち

松垣 あいら

生物が持つ仕組みを活かして、病気や怪我で失われた体の機能を修復することができる材料設計の研究をしています。特に骨の治療に使うデバイス開発をしており、人の体をはじめ生物が持っている仕組みを誘導するような金属材料の設計・開発をしています。
骨や関節の代わりとなる生体材料としてチタンやチタン合金などの金属が使われています。私が目指すのは、こうした金属材料を活用した体の機能の修復です。
チタンやチタン合金は骨との親和性が高く、骨と直接的に結合します。これは、タンパク質などの生体内の物質を介して細胞が金属と相互に働きあうためです。金属材料を活用した骨組織の早期修復を促すために、骨の細胞機能を引き出し骨回復させるための材料設計を行っています。細胞の機能をコントロールするという観点から、金属材料の新しい設計指針もみえてきました。

バイオの知識を金属生体材料に応用

バイオの知識を金属生体材料に応用

学生時には、化学やバイオについて学んでいましたが、その後、生き物が持つタンパク質や遺伝子学的な仕組みと、生体材料との関わりを見出し、金属材料の設計に取り組み始めました。
生物の持つ仕組みや機能は非常にたくさんあり、驚くほど複雑です。実は未だに解明できていない生物の仕組みや現象は数多くあります。複雑であるがゆえに材料設計が予測通りにいかずに困難になるという点もありますが、だからこそ生物と金属材料設計という異分野融合のアプローチには大きな可能性があると思っています。
たとえば、金属材料と骨の細胞がどのように相互作用して、生体内で骨が形成されるメカニズムを、生体内の環境を人工的につくりあげて試験をしています。生物の仕組みを理解して材料設計にフィードバックする、まさに生体材料研究の醍醐味です。
生体材料開発において、重要な観点はより耐久性の高い、そして人体には負担がかからない材料をつくることです。生体材料が体内で摩耗などの経年劣化することにより、再度手術をして患者さんの体に入れ直す手術をしなくてはならないケースがあります。なるべく置換手術が起きないような材料を開発することで患者さんの負担を減らすことができます。

金属研究者たちと切磋琢磨できる場 ―日本金属学会―

金属研究者たちと切磋琢磨できる場 ―日本金属学会―

日本金属学会からは若手の研究者を支援していただいており、フロンティア研究助成では研究費を支援していただきました。また、若手研究グループとしても支援いただき、東北大学の先生をリーダーとし、生体材料の実験における規格標準化に取り組みました。生体材料の研究開発は比較的新しい分野であり、実験方法やサンプルについての標準化がされていません。これからより多くの患者さんや、様々な疾患を持った患者さんの役に立つために、ますます多くの分野の研究者が生体材料研究に共に取り組めるきっかけになったと思います。
また、年2回開催される講演大会においては、立場や研究分野に関わらず、聴講や発表の機会を頂けます。この機会が共同研究や他の研究者と切磋琢磨できる場であり、また、金属研究の仲間たちと定期的に集まり、情報交換ができる貴重な場となっています。講演大会はポスターセッションに始まり、口頭講演が開催され3、4日間に及ぶのですが、その間、託児所を設けてくれるので、私も子供を預けて、講演大会に集中することができました。研究者が研究に没頭できる環境を作っていただけるのはとてもありがたいです。

生体材料として実際に患者さんに使ってもらうために

生体材料として実際に患者さんに使ってもらうために

医療機器は開発されてから実際に患者さんに使える段階まで進むには、安全性の検証などに長い年月が必要となります。研究室では骨の内部の原子配列に注目することで、より短期間の治療で患者さんの負担を少なくする生体材料開発に取り組んでいます。基礎研究の知見をもとに、脊椎治療のためのデバイスを実用化し、現在、実際に多くの患者さんに使って頂いています。 これからも生体材料の研究をとおして、医療を変える、そして人や社会に役立つ材料開発を目指していきたいです。

Profile

松垣 あいら 博士(工学)
大阪大学大学院工学研究科 マテリアル生産科学専攻
構造機能制御学講座 材料組織制御工学領域
材料機能化プロセス工学講座 生体材料学領域(兼)

2006年03月 大阪大学 理学部化学科卒業
2008年03月 大阪大学大学院理学研究科 生物科学専攻 博士前期課程修了
2013年09月 大阪大学大学院工学研究科 マテリアル生産科学専攻 博士後期課程修了
2013年10月 大阪大学大学院工学研究科特任助教
2021年10月 ~ 継続中 大阪大学大学院工学研究科准教授

[日本金属学会活動]
男女共同参画委員、 まてりあ編集委員、講演大会委員

本インタビューは2023年12月の内容です。
本内容に関するお問い合わせ、取材依頼は日本金属学会までご連絡をお願いいたします。

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