日本金属学会

ユース・学生会員たちの挑戦

東京都立科学技術高等学校 稲場 千怜さん

Introduction
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ハイドロタルサイトで都市鉱山から安全かつ効率的にレアメタルを回収

ハイドロタルサイトで都市鉱山から安全かつ効率的にレアメタルを回収

都市鉱山問題を解決するため、電子部品からの効率的な金属回収の研究をハイドロタルサイトという物質に着目し取り組んでいます。都市鉱山とは、廃棄された家電や携帯電話、そしてパソコンなどの電化製品から金属材料を回収し、再利用することです。貴重な資源であり、鉱山から採掘するよりも効率的に資源回収をすることができるため注目されています。
私はこの研究を通して、レアメタルをめぐる紛争や環境破壊が世界中で起きていることを知りました。都市鉱山から、金属を効率的に回収し、資源をリサイクルできれば、新しく採掘される量を減らすことができ、それが紛争や環境破壊を止めることにつながると思っています。ハイドロタルサイトを使うと、従来よりも低温で、かつ再分離の必要がないため、より環境負荷の低い方法であると考えています。

ハイドロタルサイトの機能を金属に応用

ハイドロタルサイトはマグネシウムとアルミニウムからできており、医薬品としてバファリンという解熱鎮痛剤にも使われており、胃の粘膜を保護するための機能を持つため「胃に優しい成分」として、使われているものです。実はこのハイドロタルサイトにはいくつか機能があり、臭素を吸着するのと、通常よりも低い温度で電子部品から金属を分離させる機能があることがわかりました。しかも、粉末の状態のままで熱処理をすることができるため、処理後の再分離の必要がありません。

最初は温度と素材、そしてハイドロタルサイトの相互作用がわからず、実験を重ねても結果が出ないことが続きましたが、現在、通常の熱分解が600℃―800℃で行われるところを、450℃という低温での熱分解に成功しています。 また、これまで分解に使われている水酸化ナトリウムは取り出した金属にも付着してしまうことから、取り出した後の洗浄処理が必要になりましたが、ハイドロタルサイトは粉末の状態を維持し、さらに臭素を吸着してくれます。 取り出した後はすぐにバリバリと基盤から電子部品を剥がすことができます。金属の周りの部品などが脆くなり、リサイクル可能な中の金属を取り出しやすくなるというわけです。

ハイドロタルサイトの機能を金属に応用

当初は金属や基盤について知らないことがたくさんありましたが、スーパーサイエンスハイスクールに指定されている東京都立科学技術高等学校では、様々な研究に取り組んでいるため、基盤について詳しい先生に話を聞きに行き、基盤の構造についてや、基盤にどのような金属が使われているかを学ぶところから始めました。

例えば、タンタルコンデンサに使われているタンタルはレアメタルと呼ばれる希少元素で、とても高価な物質です。コンデンサは電気を蓄えたり、放出したりする機能を持つ電子回路の部品の一つで、タンタルは小型化、かつ大容量のコンデンサに欠かせない材料です。しかし、現在、タンタルは埋蔵量の約6割がコンゴ周辺にあり、コンゴやルワンダでは紛争の原因となったり、採掘を目的とした森林伐採による環境破壊が起きたりしています。そのため、今ある都市鉱山からこのようなレアメタルを効率的に取り出し、再利用することが非常に重要です。

研究の改善に向けて

研究の改善に向けて

現在、研究対象としているハイドロタルサイトは4種類あり、それぞれ特性が異なるため、熱分解をする対象によって使い分けたり、温度などの条件を変えたりすることで、さらなる効率化を目指しています。 また、今回のポスターセッションを通して、ハイドロタルサイトの分析や、熱処理をした後の分析についての改善点を指摘していただきました。自分では思ってもみなかった視点でしたので、とても勉強になりました。

2024年春期講演大会高校生ポスターセッションで会長賞を受賞

日本金属学会の講演大会ポスターセッションへの参加は今回で3回目でしたが、最初の2回はコロナ禍のため、オンライン参加でしたので、今回が対面形式での初参加となりました。
実は当日は審査をされているということがすっかり頭から抜け落ちており、ポスターについて説明したり、質問に回答したり、議論をしたりすることにとにかく夢中になっていたので、あっという間の時間でした。
今回、思いがけず会長賞をいただけたことはとても感謝しており、なによりも受賞したことを高校の顧問の先生に褒めていただき、報告ポスターを作って校舎に掲示してくれたことがとても嬉しかったです。
ポスターの作成にあたっては、何度も顧問の先生とやりとりをして、よりよい説明文、よりよい写真へと改善し、誰が見てもわかりやすいポスターにすることを心がけました。
日本金属学会のような高度な知識を持つ方に向けての発表は初めての経験だったため、始まる前はとても緊張しましたし、たくさんの人が集まっていて圧倒されましたが、始まると、相手の知識や専門に合わせて説明の仕方を変えたり、質問の意図を理解して回答したり、わからないことを聞いたりと、とても充実した時間となりました。

「研究を通じて、もっと多くの人に都市鉱山問題を知ってもらいたい」

「研究を通じて、もっと多くの人に都市鉱山問題を知ってもらいたい」

この研究をする前にも「都市鉱山」という言葉は聞いたことがありましたが、その問題の本質までは理解していませんでした。研究を進めていく中で、世界中で鉱物をめぐっての環境破壊や紛争が起きていることを知りました。今後、この研究をすることによって、この都市鉱山問題をもっと多くの人に知っていただくことができればと思っています。多くの方に知っていただくことで、都市鉱山からのリサイクルの必要性を理解していただけると思っています。
また、今回のポスターセッションを通じて、金属研究に関わっている方と、たくさんの議論ができたことは私にとってとても大きな経験となりました。研究だけでなく、受験勉強にも打ち込み、大学に進学して金属研究を続けていきたいです。

本インタビューは2024年4月の内容です。
本内容に関するお問い合わせ、取材依頼は日本金属学会までご連絡をお願いいたします。

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