2023年度に活動終了した若手研究会成果報告
No. 7 若手研究グループ「CO2ゼロエミッション社会に向けた耐環境構造金属材料研究グループ」活動最終報告書
活動期間:2022年3月~2024年2月(2年間)
活動目的
2050年のカーボンニュートラル達成を目指して、今後、CO2の収支がプラスマイナスゼロとなるCO2ゼロエミッション社会への移行に向けたインフラの劇的な変化に対応するために、構造金属材料の抜本的見直しが必要となる。しかし構造金属材料分野は、産業規模が大きいこともあり、簡単には材料特性の改質に迫ることが難しい。特に、学特性分野と耐環境分野の連携と融合が必要不可欠であるが、若手研究者の大半は、力学特性(物理的性質)か耐環境特性(化学的性質)のどちらかを専門とすることがほとんどであり、双方を並行して研究するだけの経験も知識も、資金も十分ではない。それを補うには、さまざまな学術的なバックグラウンドを持つ研究者が皆で協調し連携する必要がある。また、同じテーマでありながら異なる視点を持つ異分野の研究者との議論は、同分野の研究者同志では得られなかった発想や課題を見出す機会にもなる。
そこで本若手研究グループでは、CO2ゼロエミッション社会に向けた耐環境構造金属材料研究を目的として学界・産業界の若手研究者が、カーボンニュートラルの達成に向けて議論を深める場を創生し、耐環境構造金属材料に関する共同研究を開始・実施するための体制構築を目的とした。
活動概要(実施状況・成果等)
活動期間内に計4回の研究会、勉強会を開催した。特に、2023年10月には溶接学会若手会員の会との共同研究会・施設見学会と題し、本研究グループの共同研究の成果等を発表し、溶接学会の若手研究者と議論および意見効果を行った。また、次世代放射光施設ナノテラスの見学会も行い、今後の研究に活かす方法などを議論した。これらの成果として、Mg-Li合金の機械的性質と耐食性に関する共同研究や溶接学会の若手研究者と本研究グループの構成員との共同研究が始まるなど当初の目的を達成する成果があった。
活動期間内に開始した共同研究のひとつとして、耐熱鋼Gr.91鋼の研究について紹介する。カーボンニュートラルの達成に向けた次世代エネルギーの一つである燃料アンモニアの実用化に向けた取り組みが進められている。例えば、アンモニアと石炭による混焼を利用した火力発電は既存設備を利用でき、2030年にも運用が開始される見通しとなっている。アンモニアを燃焼させると、高温環境下でアンモニアから乖離した窒素や水素が材料表面から侵入すると予想される。マルテンサイトやフェライトの窒素の固溶量は比較的少ないため、侵入した窒素の大半は窒化物として鋼中に存在する。もし窒化物の形成等により鋼の特性が下がるのであれば、アンモニア燃焼時の鋼の材料劣化は、これまでの大気雰囲気で使用する場合に比べ、より早期に生じる可能性がある。そこで、固相窒素吸収法により窒素を導入したGr.91を作製し、そのミクロ組織の解析や機械的性質、耐酸化性、水素透過性を調査した。その結果、Gr.91鋼に固相窒素吸収法を施すと、窒素がマルテンサイトに固溶し、強度や延性が向上した。これを焼き戻すと、窒化物が析出し、室温機械的性質や耐酸化性が低下した。これはマルテンサイトに固溶していた固溶強化元素や保護性酸化皮膜形成元素が窒化物に分配されたためと考えられる。また、この影響がクリープ強度にも表れており、クリープ強度は窒化物の形成により低下する傾向にあった。これら成果の一部を2023年秋期講演大会で報告し、論文を投稿した。
なお、クリープ試験片や透過型電子顕微鏡観察用試料の作製に本グループの予算を使用しました。感謝申し上げます。
若手研究グループ世話人
井田 駿太郎(東北大学大学院工学研究科)
若手研究グループ
◎若手および調査・研究事業を活性化することを狙いとして、若手主体の研究グループを発足しています。
研究会や(研究助成申請等を目指した)新規研究テーマの開拓に向けた課題の抽出や目標の明確化を狙いとした活動を行います。
https://jimm.jp/research/