2023年度活動中の「若手研究グループ」
若手および調査・研究事業を活性化することを狙いとして、若手主体の研究グループを発足しています。本年3月から新たに下記の研究会が発足いたしました。
09「非鉄金属材料の水素侵入・水素脆化研究グループ」
活動期間:2023年3月1日~2025年2月28日の2年間
【設立の背景、必要性、目的、意義、得られる成果・目標等】
Al 合金や Mg 合金をはじめとした軽金属からなる非鉄金属材料は、鉄鋼材料と比較して軽量でありリサイクルコストおよびリサイクル時の CO2 排出量が極端に低いため、国内外を問わず今後の利用の増加が期待されている。一方で、例えば高強度 Al 合金に分類される7000系 Al 合金において応力腐食割れの原因が材料内に侵入した水素であることや Mg合金でも水素が脆化の原因となる研究結果が報告されており、非鉄金属材料においても水素侵入および水素脆化は憂慮すべき劣化現象の一つである。これまで、国内外を問わず水素侵入・水素脆化に関する研究は鉄鋼材料をターゲットとして行われてきた。しかし、非鉄金属材料の使用量増加を受け、今後、今以上に非鉄金属材料の水素侵入・水素脆化に関する研究の重要性が高まると考えられる。鉄鋼材料と非鉄金属材料では水素侵入に影響を及ぼす腐食挙動や水素脆化に影響を及ぼす力学特性・金属組織など異なる点が多い。これはすなわち、従来の鉄鋼材料に対する水素侵入・水素脆化研究のアプローチのみでは不十分であることを示している。そこで非鉄金属材料の水素侵入・水素脆化に関しての議論および今後この分野を牽引するであろう30代を中心とした若手研究者の人材育成、交流を目的とする研究委員会の設立を申請する。
本委員会で議論の対象とする材料は今後の使用量拡大が期待され水素脆化による劣化が懸念される Al 合金および Mg合金を中心とした非鉄金属材料である。これらの材料を主として研究する大学・研究所・企業の若手研究者を委員として迎えた。中には水素侵入・水素脆化を専門としない者も含まれるが、いずれも本テーマに大きな興味を持ち、意欲的に知識を吸収しようとする者たちである。また、水素侵入・水素脆化は腐食や応力、材料組織など複数の因子が複雑に影響しあうことで発現するため、分野の垣根を超えた多面的な視野からの研究が必要となる。異分野に属する若手研究者が交流・議論することで、金属学会の若手研究者の知識の底上げおよび超分野的な共同研究の推進が可能になると期待される。
代表世話人 | 土井 康太郎 |
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物質・材料研究機構 構造材料研究拠点 耐食材料グループ | |
TEL:029-859-2159 | |
E-mail: DOI.Kotaro[at]nims.go.jp | |
※[at]は@に変換して下さい。 |
08「原子力エネルギー用材料研究グループ」
活動期間:2023年3月1日~2025年2月28日の2年間
【若手研究グループ設置目的】
照射損傷及び微小試験片技術というエネルギー炉材料特有の現象を扱う点を共通項とし、将来を担う若手を中心とした議論の場を設けることにより、産学官のネットワークを形成することを目的とする。
【背景と必要性、意義】
第6次のエネルギー基本計画では、2050年カーボンニュートラルに向けた長期展望、それを踏まえた2030年までの政策対応を明示している。この中で原子力エネルギーは、安全性の確保、ならびに、国民からの信頼確保を大前提とし、長期的なエネルギー需給構造の安定化に寄与する重要なベースロード電源に位置付けられており、我々原子力材料研究者には、原子力の安全活用に向けた研究努力が求められている。
しかし、申請者らは、現在の原子力材料研究の方向性、ないしは、研究力の低下に危機感を感じている。原子力材料分野を問わず、近年の若手研究者が減少傾向にあるのに対し、解決を急がなければならない材料問題は常に増加する傾向にある。特に、震災以降、国内の中性子照射場の減少、将来の原子力研究の不透明さが人員的リソースを発散させる方向に作用し、我が国の研究力の低下につながると予測されている。このように、2011年の震災は原子力材料研究の大きな転換期であったということは明らかであり、これを受け、学術界では、核融合炉や高速炉、小型モジュール炉等の革新炉材料開発に関する研究トピックスにシフトする傾向にある。このため、既設炉を対象とした研究取組に対し、若手研究者の研究参画も減少する傾向にあって、これまでに脈々と培われた材料照射研究のテクノロジーや基礎知見の陳腐化が問題となる。革新炉及び既設炉を問わず、いずれの炉型においても材料に求められる性能は、照射損傷、すなわち中性子照射による原子弾き出しを起源とする材料特性劣化に対する抵抗性の評価であって、これらの研究トピックス間での問題認識の共有化、さらには、双方的議論が享受されるべきであるが、昨今の学会等の研究発表の場において、これらが必ずしも満足されている状況にないと考えている。
このように、学術界と産業界での垣根を外し、共通の研究課題の精緻化、今後の原子力材料研究のあり方、重畳的な発展等について議論するためのプラットフォームを構築することは、今後の継続的な学問体系の発展に対して意義深く、その中でも、今後の原子力材料の研究指針を見定めていくうえでは、若手の階層において産学官の連携がとれていることが新たな研究課題を抽出するうえで強みとなると期待される。
【得られる成果・目標】
まず、本研究会では、震災以降、精力的に進められてきた模擬照射手法(イオン照射)を活用した微小試験片技術を今後どのように発展させ、学術界と産業界での双方向的な発展に必要不可欠な研究トピックスの洗い出しを行い、今後10年間の研究の方向性を見出すべく、議論を深める。これにより、基礎研究知見の向上のみならず、更なる若手研究者の育成も期待される。また、本年から2030年は2050カーボンニュートラルまでの橋渡し期間に位置付けられているが、カーボンニュートラルを本当に達成するためには学術的な飛躍が必要である。そのため、原子力材料コミュニティーに留まらず、今後の研究を担う世代を中心とした研究者ネットワークを構築し、各所属組織の事情に縛られない自由闊達な議論を通じて、新たな学理の追求に向けた指針を得ることを目標とする。なお、本研究会での交流をもとに、科学研究費補助金等の競争的資金に応募することや新しい共同研究展開へも期待される。
代表者 | 岡 弘 |
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北海道大学大学院 工学研究院 | |
TEL:011-706-6769 | |
E-mail: hiroshi_oka[at]eng.hokudai.ac.jp | |
※[at]は@に変換して下さい。 |
07「CO2ゼロエミッション社会に向けた耐環境構造金属材料研究グループ」
活動期間 2年間(2022年3月1日~2024年2月28日)
2050年のカーボンニュートラル達成を目指して、今後、CO2の収支がプラスマイナスゼロとなるCO2ゼロエミッション社会への移行が進む。残念ながら、2018年の我が国のCO2排出量は11。4億トンであったのに対し、吸収量はたった0.6億トンであった[日本国温室効果ガスインベントリ報告書、2020年]。したがって、CO2排出量の多大な削減が喫緊の課題である。
CO2排出量削減の鍵の一つは構造金属材料である。我が国の主要なCO2排出部門は、金属材料に深く関連している発電(4.2億トン)、自動車(1.8億トン)および鉄鋼(1.4億トン)であり、これらだけで全体の65%を占める。政府が示す2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略においても、発電部門の脱炭素化に向けて、再生エネルギーの最大限導入や水素発電、CO2キャプチャーの推進が明記されている。運輸部門や鉄鋼産業に関しても電動化、水素自動車や水素還元製鉄などの具体的な成長戦略が示されている。
これらCO2ゼロエミッション社会に向けたインフラの劇的な変化に対応するために、構造金属材料の抜本的見直しが必要となってくる。しかし構造金属材料分野は、産業規模が大きいこともあり、簡単には材料特性の改質に迫ることが難しい。この学術的原因は多岐にわたるが、とりわけ力学特性分野と耐環境分野の連携と融合がこれまで弱かったことは大きな反省材料である。力学特性と耐環境特性の双方を並行して研究する大学の研究室は非常に少ない。しかし一方、実用化される材料には力学特性と耐環境特性の両立が常に求められる。今後特に、新しいエネルギー源の置き換えと使用環境の更なる極限化が進行すれば、構造金属材料への環境負荷はますます厳しくなるはずである。例えば、トヨタが積極的に開発を進めている水素エンジン車であるが、水素タンクは水素脆化が起こる環境下に晒されており、こういった環境における材料の変形や破壊、疲労等の理解が強く求められている。同様に、水素エンジン部材は、これまで経験したことの無いような高温高圧の水蒸気に長時間、繰り返し晒される。したがって、構成材料の寿命は、単に温度や応力だけでなく、部材周辺の環境の効果も因子として勘案されなければならない。
しかし若手研究者の大半は、力学特性(物理的性質)か耐環境特性(化学的性質)のどちらかを専門とすることがほとんどであり、双方を並行して研究するだけの経験も知識も、資金もまだまだである。それを補うには、さまざまな学術バックグラウンドの研究者が皆で協調し連携する必要がある。また、同じテーマでありながら異なる視点を持つ異分野の研究者との議論は、同分野の研究者同志では得られなかった発想や課題を見出す機会にもなり得る。
加えて、学界の若手研究者は、企業との連携の経験が乏しい。そのため、学界の若手研究者らは自分達自身のシーズ研究成果の活かし方がわからない。産業界側は学界の若手研究者の研究内容がわからないといったところが実情である。そこで、CO2ゼロエミッション社会に向けた耐環境構造金属材料研究に関して、学界と産業界の間で若手研究者のための情報交換の場があれば、次世代の課題解決に向けて材料科学アプローチの大きな進展が見られるはずである。
【目 的】
そこで本若手研究グループでは、CO2ゼロエミッション社会に向けた耐環境構造金属材料研究を目的として学界・産業界の若手研究者が、カーボンニュートラルの達成に向けて議論を深める場を創生し、耐環境構造金属材料に関する共同研究を開始・実施するための体制構築を目的とする。
【意 義】
約30年後のカーボンニュートラルの達成にむけた研究は、現在の若手研究者が問題意識を高め、主体的に取り組んでいかなければならない。本若手研究グループでは、将来の課題解決のためにこれまで近くて交わりが乏しかった力学特性と耐環境特性の連携と融合を目指す。そこで本若手研究グループでは、学界、産業界の若手研究者間の議論を通して、カーボンニュートラルの達成に向け、構造金属材料に課せられる具体的な課題を探索し、その課題解決に向けた共同研究に着手する。この若手研究者ネットワークは、耐環境構造金属材料の需要を認識し、実装に対する産業上の問題点を理解する上でも、極めて重要である。
上述の目的を達成するため、本研究グループには、さまざまな学術バックグラウンドを有する若手研究者が参加している。今後は構成員のさらなる拡充を図り、より一層幅広い分野の研究者らが「耐環境構造金属材料」という観点で議論する場に発展させる予定である。
【得られる成果・目標]
本研究グループは、構造金属材料の力学特性と耐環境特性を研究する若手研究者らが中心となった新たな研究ネットワークである。そのため、大学間あるいは大学企業間の新たな共同研究や新規研究テーマの創設が見込まれる。また、金属学会においても力学特性と耐環境特性を融合するテーマの新たなセッションを本研究グループで立ち上げることを目標に活動する。今回の研究グループではカーボンニュートラルの達成にむけた具体的な課題の抽出と課題解決に向けた検討を行い、さらに具体的な研究内容に展開する研究会の立ち上げを模索していく。
これら活動を通じた研究成果は、論文や学会発表を通じ、金属学会に還元する。
代表世話人 | 井田 駿太郎 |
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東北大学大学院 工学研究科 | |
TEL:022-795-7326 | |
E-mail: shuntaro.ida.e1[at]tohoku.ac.jp | |
※[at]は@に変換して下さい。 |