日本金属学会

新設「若手研究グループ」発足のご案内

若手および調査・研究事業を活性化することを狙いとして,本年3 月から新たに若手主体の研究グループが発足いたします.

■ 01.「鉄鋼メタラジー研究グループ」

活動期間 2018年3 月1 日~2020年2 月28日の2 年間

約30年前,全国の大学で40以上を数えた金属系学科は減少の一途をたどり,とくに“冶金学(メタラジー)”を冠する学科名は全国から消えてしまった. しかし,国際競争力が激化する現代,金属産業界からは,大学や研究機関に対して,基礎研究の推進と同時に冶金学を習得した優秀な人材の育成・輩出を期待する声がより一層強くなっている. このような背景から,今後,我が国において金属研究の学術的かつ工業的な発展を持続させるためには,大学・研究所・企業で活躍する中堅研究者が結集し,冶金学に関する深い議論の中で各々の研究・開発力を深化させるとともに,互いに連携して金属研究を牽引する中核集団を育成することが必須となる. そこで,特に産業界からニーズの強い鉄鋼材料を研究対象とした「鉄鋼メタラジー」研究グループの設置を申請する.

対象とするテーマは鉄鋼材料を中心とした構造用金属材料の「組織と特性」とするが,必ずしも鉄鋼を専門としない研究者も構成員に交え,理論,実験,計算の各専門分野から現在取り組んでいる研究や挑戦したい今後の課題などを忌憚なく討論する場を設ける. また,予算を活用して海外で活躍する同世代の研究者を招聘し,本申請グループをハブとした国際的な学術ネットワークを構築する. あくまでも,本研究グループでは,各分野を代表する新進気鋭の研究者が学術的好奇心を持って,冶金学に関する真理を探究することを主眼とする. そのため,投稿論文数の急増や小規模な共同研究など,短期的な成果は小さいと予想されるが,本申請グループが中心となって科学研究費補助金・新学術領域研究などが新たに開拓されることが将来期待される. 一方で,博士課程の学生やポスドクなど次世代の人材育成,人材交流のためのプラットフォームを構築することも若手・中堅研究者の責務であると捉え,その一端を担うことも目標とする.

代表者 中田伸生(東京工業大学)
TEL 045-924-5622
E-mail: nakada.n.aa[at]m.titech.ac.jp
※[at]は@に変換して下さい。

■ 02.「Additive Manufacturing(付加製造)による超高耐食性金属材料の開発研究グループ」

活動期間 2018年3 月1 日~2020年2 月28日の2 年間

金属3D プリンティングの名称により近年急速に認知度が高まっ てきた新規プロセスの一つである, 付加製造(AM: Additive Manufacturing)について,その重要性にもかかわらず,知見が不足している耐食性に焦点を当て研究を行う. 医療用の金属材料を中心に,合金組成および介在物の大きさや分布など,金属組織により耐食性に影響を及ぼす因子に着目し,AM による特有の金属組織形成を活用することで,従来のプロセスで製造した材料と比較して優れた耐食性を発揮する新規材料の開発を目的とする.

優れた耐食性を示す金属材料の需要は医療分野や航空宇宙分野をはじめ,多くの産業分野において日増しに高まっている. 比較的高い耐食性を示す不働態化型の金属材料は,製造プロセスにおいて導入される介在物などの欠陥因子の存在によりその耐食性は損なわれ,これが実用上の課題となっていることが知られている. 従来のプロセスにおいても,このような欠陥因子の導入を抑制する種々の対策が施されており,各種材料において,耐食性を可能な限り発揮できるよう調整がなされているが,現在においても,腐食を原因とする製品や構造材の劣化や損傷の問題は完全に解決するには至っておらず,貴金属合金,ニッケル基合金やチタン合金など,より高価な材料で代用するケースも頻繁にみられる.

AM プロセスでは粉末の原材料を高エネルギーのレーザーや電子ビームの照射により局所的に瞬間的な溶融・凝固を行うため,照射エネルギー密度や走査速度,積層厚さ,ピッチなど,さまざまな造形条件を調整することで,材料の耐食性を損なう欠陥因子の導入の抑制した,AM ならではの金属組織が得られることが期待され,これは飛躍的な耐食性の向上につながる. 本研究では,医療用金属材料を中心に,さまざまな条件により作製したAM 材の耐食性を評価し,その金属組織との相関を明らかにすることで,形状や機械的性質だけでなく,耐食性にも優れた新規材料の開発を目的とする.

申請者らのグループは,AM による試料作製,耐食性評価,表面分析,結晶構造解析および生物学的な評価をはじめとした,本研究の推進に必要なバックグラウンドを備えた,多機関にわたる若手研究者らのメンバーで構成されている.互いの専門知識や技能を共有することで,本研究課題の達成は十分に可能であると思われる.

本研究の達成により得られる成果として,医療用はもとより,一般産業用として実用されている部品やデバイスの低コスト化・高信頼性化・高安全性化につながることが期待される. さらに,AM特有の金属組織と耐食性との相関から論じられる,腐食工学における新たな学理の提案にもつながり,学術的にも価値のある成果ともなり得る. 本研究は,新たな合金元素の添加による成分の複雑化や希少金の使用に頼ることなく,既存の金属材料の耐食性のポテンシャルを,プロセスの工夫により最大限に引き出すことにあるため,環境材料の概念にも合致していることも,特筆すべき点である.

代表者 堤祐介(東京医科歯科大学生体材料工学研究所)
TEL 03-5280-8009
E-mail: tsutsumi.met[at]tmd.ac.jp
※[at]は@に変換して下さい。

■ 03.「多様な先端観察・測定法を用いた組織の定量と力学特性解析への適用」

活動期間 2018年3 月1 日~2020年2 月28日

現在,各種先端観察・測定法が開発され,それぞれの分野でさらなる高度化とその適用範囲の拡大が進められている. 具体例として,超高圧走査透過電子顕微鏡法(首藤),ピークブロードニング解析(赤間・宮澤),局所応力集中測定(宮澤),高速集合組織観察(小貫),デジタル画像相関法(古賀),精密電気抵抗率測定や高精度熱分析(宮嶋),マイクロピラー試験(高田)等が挙げられる. これらの手法を,実用合金の設計(高田),耐熱合金開発(山崎・赤間),疲労(首藤),クリープ(山崎),巨大ひずみ加工(紙川)といった,幅広い構造用金属材料の研究に適用することで,組織を定量的に扱う事が可能となる. これらの結果は結晶塑性モデルの構築(奥山)にも寄与し,力学特性の理解が深まる. しかしながら,現状では複数の先端観察・測定法・計算を相補的に用いることは極めて少なく,シナジー効果の創出は喫緊の課題と言える.

目的と意義:

本研究グループの構成員は,多様な先端観察・測定手法に加えて種々の加工プロセスを専門とする. その為,鉄・非鉄を問わず,幅広い金属材料に種々の加工プロセスを適用して作製した組織に対して,各種先端観察・測定法を相補的に用いるための検討を行うことが可能である. つまり,これらのメンバーが一堂に会すること自体に意義がある.本研究会では従来の枠組みではなし得なかったシナジー効果の創出を目指し,さらに構造用金属材料の力学特性や組織評価における課題を学び,先端観察・測定法の適用によって課題解決への議論を行う場を提供することが目的である.

得られる成果・目標等:

本研究グループによって得ることのできる成果・目標は,各種最先端観察・測定法を相補的に適用する為の基礎指針を確立することである. また,これと併せて30代の研究者を幅広く集めたため,実際の測定に最も精通している若手研究者同士の共同研究の活発化,および,将来,競争的資金に応募する際の研究グループ形成の基礎となる事が強く期待される.

代表者 宮嶋陽司(東京工業大学物質理工学院材料系)
E-mail: miyajima.y.ab[at]m.titech.ac.jp
※[at]は@に変換して下さい。

■ 04.「量子ビーム散乱測定による金属組織形成過程のマルチスケール解析研究グループ」

活動期間 2018年3 月1 日~2020年2 月28日

現在,社会の要求に応えるべく様々な新しい金属材料は生み出され,それらの組織制御技術もますます高度化している. これらの新材料で観測される新たな金属組織の形成メカニズムを詳細に明らかにするためには,金属組織をあらゆる視点から観測することが不可欠である. この要求に対して,量子ビームを用いた新しい散乱測定技術は,その場測定や金属組織の定量化等,既存の観察技術と相互補完することで,様々な場面で威力を発揮すると考えられる.

一方,大型中性子施設MLF/J-PARC の稼働によって,大型放射光施設SPring-8 と合わせて国内に最先端の量子ビーム施設を利用できる環境が整った. しかしながら,金属研究においては,イメージング関連の手法が活発に利用されているものの,散乱を中心とした量子ビーム測定技術の普及は進んでいない. 散乱測定は,オングストロームからマイクロメートルにわたる広いスケールの金属組織に対する体積平均的な評価や,複雑な金属組織の定量化等を得意とし,これまで用いられてきた電子顕微鏡等とは異なる視点の情報が得られるという特徴を持つ.

このような金属材料に対して,量子ビーム散乱測定技術の利用を 推進するためには,材料研究者と量子ビーム技術を持つ分析側の研究者がグループを形成し,共創的に活動する必要がある. そこで,材料研究者と分析研究者が一丸となり,最先端の量子ビーム測定技術を用いて金属組織の形成の学理を追求する場を設けることを目的として,本研究グループを申請する. 本研究グループでは,材料研究者と分析研究者による新たな共同研究や,金属組織評価における新しい量子ビーム散乱測定技術の有効性を示す成果を創出することを目標とする. また,金属材料分野の若手研究者の人材育成や量子ビームの利用をさらに拡大するべく,研究会への発展を目指す.

代表者 諸岡聡(日本原子力研究開発機構物質科学研究センター)
E-mail: morooka[at]post.j-parc.jp
※[at]は@に変換して下さい。

■05「次世代高性能磁性材料研究グループ」

活動期間:2019年3月1日~2021年2月28日の2年間

経済発展と社会的課題の解決を両立する社会の実現に向けた``Society5.0''が提唱されている.このSociety5.0の目指す具体例としては,IoT,ロボット,AI,ビッグデータ等の先端技術を活用したロボット介護や自動車の自動走行,工場での自動生産などが内閣府により提示されている.したがって今後,IoTやロボット関連産業が一層拡大していくものと予想されるが,これらの発展に欠かせない材料として挙げられるのが,磁性材料である.磁性材料は磁気センサーや不揮発性メモリーをはじめ電気・情報通信機器を支える重要な材料であり,さらに,永久磁石型モータは小型・高出力が得られることから車載用を筆頭に需要が拡大しており,現代社会は磁性材料なしには成り立たない.今後,自動走行自動車やロボットなどがますます普及していくにつれ,高性能なセンサーやモータの開発要求も一層高まるものと予想され,そのためには高性能磁性材料の開発が必要不可欠な課題といえる.

磁性材料の更なる高性能化には用途に応じた高度な材料設計が必要であるが,現状,材料研究開発とユーザーの若手研究者間の横断的な交流が少なく,高度な材料設計をする基盤が十分でない.

そこで本研究グループは磁性材料,磁性微粒子,先端組織観察,理論計算,モータ設計と多分野にわたる若手研究者らで構成され,若手研究者間の横断的な交流の場を提供する.さらに,予算を活用して産業界からも積極的に研究者を招聘し,次世代モータなど産業界の今後の展望や課題などについて忌憚なく議論する.それによって,現状の磁性材料の課題抽出を行い,次世代の磁性材料開発指針を獲得することを目的としている.

本研究グループにより異なる専門分野の若手研究者同士の積極的な交流を促し,将来,新たな共同研究への発展ならびに競争的資金獲得へ向けたグループ形成も期待される.

代表者 松浦昌志(東北大学大学院工学研究科)
TEL 022-795-7333
E-mail: m-matsu[at]material.tohoku.ac.jp
※[at]は@に変換して下さい。

■06「生体用金属・セラミックス材料の生体外評価に関する標準化検討グループ」

活動期間:2019年3月1日~2021年2月28日の2年間

生体用材料は,材料学的な基本特性(たとえば強度,延性など)に加えて,骨形成能,抗菌性,細胞やタンパク質の接着性といった生体との反応性(挙動)の制御も必要である.材料学的基本特性の評価方法については,これまで非常に多くの歴史とノウハウがあり,その手法はほぼ確立されている.そのため,研究者間でその値について容易に比較,検討を行うことが可能であり,目標値も明確になっている場合が多い(最大引張強さや弾性率など).

一方,生体との反応性は生体用材料独自の評価項目である.最終的には臨床試験が行われるが,材料開発の段階においては,1.擬似体液と呼ばれる生体内を模擬した溶液中での挙動調査,2.細胞や細菌培養試験による細胞・細菌との反応性評価,3.マウスやウサギ,犬等の動物を用いた動物埋入試験,が行われている.ただし,動物埋入試験については,動物愛護の観点から必要最低限にすることが求められており,基本的には上記1および2の評価が一般的である.

現在,擬似体液浸漬試験や細胞・細菌培養試験については,JIS,ASTM,ISOに評価方法が規格化されている.擬似体液浸漬試験によるアパタイト形成能評価については,小久保グループが開発したKokubosolutionが世界標準となっており,とくにセラミックスや金属分野では骨形成能の指標としてKokubosolution浸漬によるアパタイト形成評価(T. Kokubo and H. Takadama: Biomaterials, 27 (2006) 2907.)が広く行われている.

一方,抗菌性試験については,JISZ2801に「抗菌加工製品-抗菌性試験方法・抗菌効果」として規格化されているものの,試験片形状が50±2mm角と指定されており,大学等でのラボスケールでの材料開発の段階においては大きすぎる.そのため,各研究者(研究グループ)においてスケールダウンして評価を行っており,独自の評価方法となっている.細胞培養試験に至っては,材料の滅菌法や細胞種が統一されておらず,加えて,細胞のカウントや形態観察等も各研究者が独自の方法で行っている状況である.そのため,学会や論文等で発表されるデータを研究者間で比較することができず,その材料の特性が十分に理解されていない状況である.


目的

そこで本研究グループにおいては(I)細菌培養試験による抗菌性評価,(II)細胞培養試験による生体組織と材料の反応性評価,に着目し,各研究者間でデータの比較ができるような評価方法標準化の提案を目的とする.具体的には,現在の状況を分析するために(1)規格化済評価方法の整理,(2)実際の評価方法の調査,を行う.その結果を踏まえて(3)ラボレベルで行える評価方法の立案,(4)ラウンドロビンテスト(同一標準試料を用いて,各研究者で評価を行う),および(5)各自の試料を用いた評価試験,を行い,最終的には(6)上記(I),(II)について,日本金属学会法として評価方法を関連学会に提案する.


意義

若手研究者が集い,勉強会を開催することで各種評価方法の現状整理,知識の共通化が図られる.加えて,各種評価方法の標準化においては,実験手技の観点のみならず,原理原則を理解した上で提案する必要がある.若手研究者が真に現象の原理原則を理解することは,生体材料という各論になりがちな分野において,将来,学問体系の構築につながる.


得られる成果・目標

これまで,生体材料においては,明確な数値として現れる評価方法が少なく,各自が開発した材料・表面処理の有効性を明確に示すことができず,比較材との相対的な評価しかできなかった.本評価方法の標準化により,絶対的な評価が可能となり,生体材料分野の研究推進が期待される.提案した評価方法にて評価した成果を積極的に学会および論文として発表することで,本研究グループの成果の認知を図ると共に,各自の新規開発材料自体のアピールにもつなげる.

加えて,構成員には,金属,セラミックス,細胞を基礎とする学側および企業側研究者が参画することで,本研究グループを通した共同研究,新規材料開発に進展することが期待される.


代表者 上田恭介(東北大学大学院工学研究科)
TEL 022-795-7295
E-mail: ueda[at]material.tohoku.ac.jp
※[at]は@に変換して下さい。

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